2023年10月30日

10月30日・月曜日。晴れ。本日は10/16日付けの文章の続きである。

前2回の論題は、要約すれば、こうなるか。殺虫剤の普及により、一時、環境衛生境の整わない地域、特にアフリカのような熱帯地方においても、蚊の発生、生息域が縮小し、マラリア、デング熱他の伝染病の蔓延が抑制されつつあった。かくて、人類の勝利が垣間見られたのである。しかし、近年、その潮目は変わり、人類と蚊との戦いは逆転の兆しを見せはじめている。これには、地球温暖化も影響しているという。それ以前には生存しえない寒冷な地域への蚊の進出、生息が可能になってきたからだ。その結果、これまでは一例の発症もなかったマラリアの感染が、合衆国で報告されているように、人類は、地域を超えた、世界的なレベルでの疫病蔓延に向き合わなければならい状況に陥ったのである。
こうなった最大の原因は、記事によれば、どうやら進化過程にある蚊が、殺虫剤に対する耐性をより早く獲得できるかららしい。人類は蚊の進化のスピードに応じて、殺虫剤の効果を高める対策を取ることはとても出来ない。よって、このレースでは、人類の勝ち目はほとんどないということになる。
その理由は、実にハッキリしている。殺虫剤の開発には膨大な費用と時間を要する。しかも、その毒性をただ強めれば良い、という分けにはいかない。生物界の環境を破壊するばかりか、人間自身が斃れてしまう。まずは安全性が確保され、同時に蚊に対して有効でなければならない。それらのバランスの取れた薬剤が完成したころには、すでに蚊は別のステージに変わってしまう。これが記事の大まかな要約である。
かつて、蚊トンボのごとき、という言葉があった。何ら恐れるに足らない、つまらぬ相手だと、ののしる意味で使われていたような気がする。しかし、その最も弱小で、簡単にひねり潰せる相手にすら、我われは今や、最大の恐怖を覚えざるをえなくなった時代にあるらしい。これは、何とも皮肉ではないか。広大な知的世界を誇り、原子力や太陽系を超えて飛び出られるほどの技術力を持ちながら、地上の微小な世界に翻弄される始末である。とすれば筆者は言いたい。我われの知識や技術には、どこまで進んでも不完全と欠陥があるということであり、知識や技術が進めば、やがて一切合切の面倒、困難は解決されのだ、などと思い上がらないことだ。そのことを深く自覚し、何に対しても謙虚でなければ、いずれ我われは自分たちが仕出かした所業に押しつぶされ、結局は身を亡ぼすのではなかろうか。そして、温暖化は、紛れもなくその兆候の一つであるに違いない(この項、終わり)。


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