2023年04月21,24日

4月21日・金曜日。晴れ。いよいよ初夏の趣き。蒸し暑し。

4月24日・月曜日。曇り。やや肌寒い。

 

先に(2/22)、過酷な戦場での体験が兵士の精神を破壊し、後に深刻な事件を引き起こすこともあったベトナム帰還米兵の悲劇を引きながら、ロシアの現政権では、刑期を終えていない犯罪者を徴兵し、しかも兵役後は完全に社会復帰を許すという政策を導入したが、そこに潜む危うさについて一言しておいた(もっともこれは、現時点ではすでに廃止されたようだが、それでも帰還兵は万単位に及ぶらしい)。この不安は、現在のウクライナ戦争では、もはや不安ではなく、現実であるとも読める記事を、ニューヨークタイムズ(3/25-26)で目にした。「戦争の心的障害」、「戦争の心的障害を負う兵士」が、そのタイトルである。

 

この戦争の特徴は、長大な戦線の固着と、格段に進化した兵器による弾幕砲火の援護の下、塹壕戦が展開され、それは一方で第一次大戦時の白兵戦を思わせる戦闘でありながら、同時にミサイル、ドローン攻撃がこれまでにないピンポイントの破壊力と残忍性を増幅させる、こうした点にあるようである。またウクライナ軍の場合、一年前までは戦闘経験のない男女混成軍であるという事情もある。

このような戦場に、長く身をさらす兵士たちが舐める肉体的な苦痛はもちろん、その精神が被る損傷もまた想像を絶したものとなるだろう。記事は言う。これまでの「それぞれの戦争は心的外傷について、何がしか新しいことを我われに教えてきた」。

第一次大戦では、病院は泣き叫び、硬直し、教科書では「道徳的廃人」と記されるような兵士たちで溢れたと素っ気ない。第二次大戦では、認識の深まりのゆえか、「最も強健な兵士ですら、過酷な戦闘ののちには心的崩壊を被る」と言われるように、やや「同情的な」所見に変わっていく。ベトナム戦争帰還兵については、戦争体験が刻印され、仕事や家庭生活が困難になるケースが報告された。そして、現在の研究はさらに進む。心的障害は、まだ生れていない子供の遺伝情報にまで作用することもあるという意味で、兵士の生涯をこえた影響力を持ちうるというのである。

キーウ国立医科大学の心理学教授―ロシアのクルミア侵略以来(2014)、ウクライナ兵の心理状況をつぶさに観察してきた研究者―は言っている。戦闘に明け暮れた兵士たちに障害が出るのは、戦場から離脱して後のことであり、その症状は悪夢、フラシュバック、不眠、自殺願望等であり、兵士としての再起は望みがたい。

そうした障害の発症時期は特定出来そうもないらしい。また、戦争に限らず、強烈な心的障害を受けると、何年か後に思いがけない形で、症状が出るそうだ。疫病研究者の報告によれば、「飢饉後に生まれた子供は、数十年後、両親の受けた経験の痕跡を引き、…肥満、統合失調症、糖尿病の発症率が高く、短命である」。これが事実であれば、現在のウクライナ戦争他、悲惨な状況に立たされた人々の惨状がその後の世代にもそれを強いることになる。人類はいまだ、心的障害の及ぼす多様で深刻な影響について、なにも分かっていないということなのであろう(以下次回)。


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