2021年9月3日

9月3日・金曜日。雨。気温の急変と地下鉄の過剰冷房が、かなり堪える。弱冷房車なる車両に逃げ込むが、益もなし。これまで筆者は「春日部の青年」を自認していたが、どうやらこの旗を下ろし、「大沼1ー55の青年」と改めるべきかと思案中である。

 

承前。ここに唐突ながら、一つの、興味深い文章を紹介したい。時は、わが国が太平洋上で米国と死闘を演じる最中、サイパン島失陥(昭和19年7月)を告げる東條首相の談話である。やや生硬だがご辛抱あれ。

「正に、帝国は、曠古の重大局面に立つに至ったのである。しかして、今こそ、敵を撃滅して、勝を決するの絶好の機会である。この秋(とき)に方り皇国護持のため、我々の進むべき途は唯一つである。心中一片の妄想なく、眼中一介の死生なく、幾多の戦友並びに同胞の鮮血によって得たる戦訓を活かし、全力を挙げて、速やかに敵を激催(げきさい)し、勝利を獲得するばかりである」(池澤夏樹『また会う日まで』・朝日新聞朝刊連載小説8/1より)。

ミッドウェー海戦(昭和17年6月)での我が連合艦隊の敗北を転機に、太平洋上の制海・制空権を失い、戦線は順次押し戻され、日本帝国はついに「絶対的国防圏」の中核と位置づけるサイパン島を、激戦の上、失陥する。これにより米軍は、日本本土の要域を空爆する重要拠点を手にし得ただけに、これは戦争の帰趨を決する決定的な意味を持った。事実、東條内閣は、その直後に退陣を余儀なくされるのである。

上記の談話は、そうしたのっぴきならない瀬戸際の最中に発せられたものだと、ご理解頂きたい。この期に及んで、首相は何のことはない、国民は自分の命を擲ち、心を一つにして米軍に立ち向かえ。されば、「敵を撃滅」し「勝を決する絶好の機会」を得ると叱咤するのである。

これが、陸軍大将、陸軍大臣にして参謀総長まで歴任し、近代戦の何たるかを知悉するはずの、紛れもなき軍トップの言葉である。それを国民はどう聞いたのであろう。何か勇壮めいていて、これ程空疎、無内容な言葉もなかろう。それこそ精神主義に取り付かれた「心中一片の妄想」、妄言に過ぎない。まるで、戦争とは国民の決死の覚悟の総量にかかると言わんばかりではないか。

しかもこの時点で、軍部上層には、わが国敗北の可能性は見えていた。それを想定しつつ、なお闇雲に戦争継続をはかり、大陸、太平洋上で膨大な数の人命を損耗させ、国民を地獄に引きずり込んだのである。権力者の絶対的な権力行使が如何に酷いものかを、我われはとくと考えなければならない理由である。

 

長くなったが、以上は前文である。菅総理のコロナ対策とこれに関わる発言が、わが狙いであったのだが、それにしては先触れが長すぎた。資料は朝日新聞・7/30(金)「緊急事態拡大、首相の会見要旨」他である(以下次回)。


Comments

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です