2020年10月14日

10月14日・水曜日。曇り。昨日、ジャパンタイムズ掲載の「北極ミッション、劣化する北極圏から帰還」の記事を読む。延べ300人の多国籍の研究者が調査船「POLARSTERN」(北極星)に乗り込み、390日に及ぶ空・海、氷、プランクトン、生態系等を探査した。データ分析とその結果を得るまでには、2年ほど要するらしいが、北極圏の環境劣化には戦慄を覚える。氷質は脆く、氷の薄さは史上2番目であり、時に氷塊の失せた水平線が見られたという。温暖化対策は待ったなしである。

 

では、インデオは何故、天然痘にかかり、人口の半減を来たすほどの惨禍に見舞われたのであろう。これに対するマクニールの解答は誠に簡明である。ユーラシア・アフリカ大陸から成る旧世界では、領域の広大さと生態系の多様さにより、そこでの動植物は益々多様となり、高度に進化したのに比べ、南北アメリカ大陸は大きな島のような存在であり、生態系の進化ははるかにシンプルであった。それ故ここでの動植物が、前者にたいして太刀打ちできるものでは、とてもなかった。その事は、「アメリカ大陸産の生物が野生の環境内で旧世界の生物との競争に勝ったためしはほとんど無い」(マクニール・下・82頁)と言われることからも明らかであろう。

とすれば、米大陸内での人間と動植物、特に動物との関係は、感染症という点で言えば、旧世界に比して単純であったと言えるであろう。彼ら原住民は、外来者に対抗しうる感染症は梅毒しかなかったと言われるような、無菌状態に近かったのである(だが、恐らくこの梅毒の従来の言い伝えも、今や信じがたい物語になった事は、マクニール、そして立川昭二『病気の社会史―文明に探る病因』・NHKブックス・1997を参照)。

さらに、米大陸の住民数は生活する地域の広大さに比べれば、はるかに少なく、人口密度は低い。そこに何らかの感染症が発生しても、多くは地方病に留まり、その意味で原住民たちは、数世紀に渡って多種多様な感染症に晒され、免疫を獲得してきた欧州人に比べれば無抵抗な状態にあったのである。ここでマクニールの引用をあえて重ねておきたい。「インディオが罹る病気の発達水準が低かったということは、それゆえ、より広範な生物学的脆弱性の一面にすぎなかった」(下・83頁)ことを意味する。つまり、原住民がヨーロッパ人たちの持ち込む微弱な病原菌にも簡単に罹患するのは、彼らを取り巻く動植物の進化水準が低く、そのため病気に対する免疫を持つ必要も無いまま暮らすことが出来たからであった。しかし、その結果、原住民が蒙った感染の惨禍はすでに見た通りである(以下次回)。


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