2020年3月27日

3月27日・金曜日。晴れ。本日、自宅付近のバス停から春日部駅までの4駅は無停車で、乗客は我れ1人。思わず運転手に、こんな事があるのかと訊けば、たまにあるとの事。でも、これはコロナの影響でしょう、という。過日、春日部市にも感染者がでた。東京圏のオーバーシュートのXデーは近いか。

 

その4、ウォッカは自家製の消毒剤の代用になる。以来、ウォッカは手指の消毒薬用として必死になって買い漁られ、店頭からほとんど消滅したと言われる。お二人によれば、確証はないものの、96%の度数であれば、その代用になるかも知れない。その5、塗布剤用のごま油がコロナの体内侵入を防ぐ。化粧品メイカーによれば、その種の問い合わせが増えているが、皮膚の保温、保湿には有効でも、コロナウィルスに対する効果は証明されていない。その6、花崗岩は入浴時に使用すると、ウィルスを破壊する。かくてネット上では、5千円のほどの値を付けて活発に取引されたが、流石に今は、規制されたようだ。その7、石蓴(あおさ)なる海藻がコロナに効く。この噂には根拠がまるで無かったわけではない。現在では全く否定されたが、中部大学で刊行された雑誌に、新型コロナウィルスの増殖を抑制できる海藻を発見した、と公表されたからである。但し、当研究は別のコロナウィルスを対象にしたものであったが、これによって石蓴はCOVID-19に対抗できるとの噂と共に、その需要が一気に高まった。

一読してどうであろうか。こう文字にして読んでみれば、これらの噂はどうも変だ、何か如何わしいとの印象を結ぶに困難では無かろう。しかし目の前で呼吸困難に陥った患者の惨状を見せつけられ、治ったと言われながら、ぶり返す不安が付きまとう。これらは、いまだこのウィルスの構造、振る舞いが不明だからだが、従ってワクチン等の根本的な治療法も存在しない。

さらには、感染力はインフルエンザほどでは無いと言いつつ、短時間での感染例もあるように、強力のようにも見える。そして、サーズ、マーズでは発症と共に感染が始まるとされていたのに対し、発症以前にすでに感染力を持つという新型コロナウィルスの不気味さは、ただ事ではない。ステルス型ウィウイルス(元コンピューターウィルスの言葉らしい)と称される理由である。

この度の恐怖の根源は、まさにこの点にある。つまり、新型ウィルスをまるで分っていないと言うこの一事である。最近、闇雲に怖がるのではなく、「正しく恐れよう」とはしきりに聞く言葉であるが、それが可能なのは相手の本体が掴めての事ではないのか。それができないから、先に見た覚束ない、怪しげな話にも藁をもつかむ思いでしがみ付いてしまうのであろう。

これは今に始まった事ではない。蒙昧の時代を超え、近代科学と技術の時代を築き上げた19世紀末から20世紀にかけて、人類は大いなる自信を持ち始めた頃、欧州にコレラが蔓延した。その恐怖はかくのごときであった。「コレラは一連の死亡原因の中では、図抜けた地位にある分けではない。しかし本病は、何か常軌を逸した、これまでとは異質な、またあらゆる対策をあざ笑うものとして外部から闖入したそのこと、また個々の病例が数日をならずして、あるいは数時間のうちでさえ、驚愕すべき徴候を次々に見せつけるそのことによって、人々の心情に対して、昔から他の病気以上に大きな印象を与えてきたのであり、さらに本病が新たに蔓延するその度ごとに、日々の暮らしをいたく損ない、その認知と防衛のために、人々の緊張を最大限にまで高めるのであった」(拙著、123頁)。

この文章は1901年に書かれたハンブルク市の公衆衛生状況を記したものである。だがこれは、ただ今現在にも通ずる迫力をもちはしないか。そして、こうした恐怖に取りつかれた人々は、「パラノイア(妄想症的)」状況の中、「コレラリキュール、コレラ煙草、コレラ葉巻、コレラ綿布、コレラ毛織物、コレラ紙、その他無数の商品」に関するコレラ対策、効用を謳った新聞紙上の広告に、我を忘れて飛びついたのであった。だが、われわれはこれを嗤うことは出来ない。むしろ、知の発達がどうあれ、人とはそういう存在なのであろうと、まず覚悟する他なさそうなのである(以下次回)。


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