2020年10月23,26日

10月23日・金曜日。雨。本日、トランプ対バイデンの最後のテレビ討論会あり。その帰趨は、アメリカ人ならずとも大いに気になるところである。なお、今回より再び本題に戻って、10月14日・水曜日の論議に引き継ぐことにしたい。と言って、前回の文章が本題に無関係だったわけではない。感染症の別の一面を示した、と言う意味があるからだ。

10月26日・月曜日。晴れ。本日、最近の文章を読み直し、特に10/12(月)の前半部分を訂正した。分かった心算で書いていても、危うい箇所は幾らでもある。残念。

 

前回(10/14)の論議は、一言にしていえば、次のように纏められよう。個々人にせよ社会にせよ、感染症に対して強いか弱いか、つまり彼らがどの程度の抵抗力を持つかは一様ではない。と言うのも、そうした抵抗力の「差異は遺伝性の場合もあるが、多くは過去に病原菌の襲来に曝された経験の有無に由来」し、その度ごとに「病気に対する防衛能力」は「個々人の体内においても各地の住民全体としても」絶え間なく調整されざるを得ず、その結果「抵抗力と免疫の水準も高低様々」(マクニール前掲書・上・36頁)になるからである。

この結論を踏まえて、ここで残された問題は、「過去に病原菌の襲来に曝された経験」の無いままに、突如、病原菌に襲われた個人や社会はどうなるかである。これについては、われわれはすでに、インデオ達の惨状を通じて、社会的・政治的に何が生じ得るかを知っている。ここで知りたい事は、そうした社会的・歴史的な悲惨ではなく、初めて感染した個々人の中で何が起り得るか、と言う点である。これについても、すでに周知であり、以下は今更ながらの記述に過ぎないが、話の締めくくりとして述べておかなければならない。なおこの問題は、現在、コロナ禍にある我々自身に関わり、かくて我われはマクニールから離れる事になる。

話の接ぎ穂として、やや旧聞に属することながら、SARSウイルス感染(2003)を取り上げよう。まずは、拙著からの引用を許されたい。SARS感染者の中で「二、三○歳代の若く免疫力の高いはずの患者が重篤な症状に陥り、命を失った比率が高いのに比して、エイズ患者のSARS発症は五例(WHO報告)に留まるといわれる。ギャレットによれば、SARSウイルスは人間を死に追い込むほどの毒性はない。だが、解剖された患者の肺は「核兵器を投下」されたほどに破壊されていた。これは侵入したSARSウイルスに対して、免疫系が「制御を失う」ほどに徹底的に対応した結果であると考えられている。「人間はまだ、このウイルスと戦う方法を身につけていない」ために、その免疫系が持ちうる武器を総動員して挑んだ結果であり、そのことのゆえに、このウイルスは人間にとって新種の可能性がある、と指摘されるのである」(拙著・329頁)。

人類にとって未知のウイルスに感染した体は、未知であるが故に、サイトカインストームと称する過剰免疫反応を引き起こし(いまだ、これが生ずる「正確な理由は完全には解明されていない」ようだ。Diseases Databaseより)、感染したウイルスによってではなく、体内の自身の免疫系によって、死に至るほどの重篤な状況へと追いやられることがあると言うのである。この時人体は、外部からの侵入者の破壊と共に、体内の免疫系からの攻撃にも晒されるということになるのであろうか。

ほぼ300万年前、人類の祖、ルーシーは仲間と共にアフリカのサバンナから出立したと言われる。その後人類は、進化の過程で無数の病原菌やウイルスに侵されながら今日にいたるも、なお新種の病原菌に遭遇しなければならないらしい。それどころか、我々自身の体内には不可欠な細菌類も多いようで、これらと共生していることを思えば、細菌類との関係は今後とも必然的と考えざるを得ないだろう。そして、福岡伸一氏は言っている。「ウイルスは私たち生命の不可避的な一部であるがゆえに、それを根絶したり撲滅したりすることはできない。私たちはこれまでも、これからもウイルスを受け入れ、共に動的平衡を生きていくしかない」(朝日新聞デジタル’20、4/6より。なお、「動的平衡」については、同氏の『動的平衡』シリーズ・小学館新書を参照されたい)。

ここでこの話を終えるに当り、最後に一言しておこう。上記のように、人類と細菌・ウイルスとの関係は、今後とも不可避であるにしても、強欲に駆られた止めどない開発は、無限に台地を掘り返し、森林を破壊し、海底を探って、その事が地球温暖化を煽り立てれば、そこに眠るドンナ獰猛な病原菌・ウイルスを招きよせるか知れたものでは無いと言う事である。不気味なエボラウイルスはエルゴン山の洞窟かザイールの森林に潜むサルや蝙蝠由来とも言われながら、いまだ特定されていないのである(R・プレストン前掲書)(この項、終わり)。


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