5月23日・月曜日。晴れ。
5月25日・月曜日。晴れ。昨日、藤井聡太五冠が、薄氷の終盤戦を制して、叡王タイトルを防衛する。これでタイトル保持の総数は8期となるが、いまだ十代の棋士としては未曽有のことである。恐らく、今後この記録を更新する棋士は出ない、あるいは今世紀中はあるまいと思う。他にも言うべきことはいくつもあるが、こうした大記録は、1,稀有なる才能、2,健康、3,幸運に恵まれた賜であろう。1,や2のみではなく、3もあってこその大業ではないか。昨日の勝負の終盤では、五冠の必敗の局面があったようだが、それを逆転した。将棋は完全に実力の世界と言われ、それをすべて認めたうえで、それでも「指運」という言葉がある。ぎりぎりの勝負では、運が決定的になることがあるのである。そして、筆者はつくづく思う。世には、このように必要なものをすべて手にする人は、確かにいるのだ。その逆の人がいるように。ここに、人の世の栄光と非情、酷薄さを思わざるを得ない。
このところウクライナ侵攻に目を奪われ、他の問題が疎かになってしまったが、それでもコロナ感染の成り行きは気になってはいた。幸い、わが国での感染の勢いは収まりつつあり、これで一安心と思いきや、欧米では「サル痘」なる感染症が発症したとのことだ。その詳細は不明だが、すでにニューヨークタイムズ(4/30-5/1)は「疫病 促進。暑くなるほど」の見出しで、「気候変動は動物間のビールス拡大を促進するであろう、との新研究の所見」を報じている。長期的にみれば、温暖化は戦争以上に地球全体にたいして深刻な影響を及ぼしそうな恐れを覚える。
こうして生ずるビールスの混交は人間にも飛び火し、新たなパンデミックを発症させるとある。その状況がどう進行するかをコンピューターでシミュレーションした結果、上記の所見となった。
その仕組みはこうである。赤道近辺の歯止めのない気温上昇により、多くの種はより涼しく快適な環境を求めて高緯度や高地に逃れる。これによりビールスは新たな宿主を見出し、ふつうは起こりえない異種間での感染の機会を生み、その変種を促すと共に、感染力も増強する。のみならず、免疫システムをすり抜けて繁殖する。「2つの種が地域的に重なるほど、それらの種は同一のビールスを共有するようになる」からでろう。
たしかに、これまでなかったような異種間の生物の遭遇と感染に関する知見は、今初めて得られたものではない。我われはすでにこのことをマクニールの『疫病と世界史』(上・下・中公文庫)で知ったことである。しかし、気温の上昇が、ビールスの伝播とそれを拡大させる推移をコンピューターを駆使してモデル化し、その過程を精緻化したことは、この時代らしい大きな発見であったのかもしれない。異なる生物が初めて遭遇したとき、ビールスの変異と伝播過程が予見可能な形で推定されるならば、今後の対策に少なからぬ意味を持とうからである。気温上昇と動物種の移動と遭遇が呼び起こす、「病原菌の流出」の連鎖を「できうる限り知ることは、大きな進歩である」とは、プリンストン大学のR・ベーカーの言である。
筆者の言いたいことは、ここである。温暖化は自然災害の激甚化ばかりか、それはまた疫病の多様化と蔓延、しかもその途切れのない連続的で劇症性の発生を来しつつある。我われが現在目の当たりにしている、コロナ蔓延はその先駆けでなければ幸いである(この項、終わり)。
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