2018年5月9日

5月9日・水曜日。曇り時に雨。肌寒し。

 

先に、わが国では、農地以外の土地取引は原則自由であることを見た。もっとも、唯一規制対象となっている農地の場合でも、脱法すれすれの取引がまかり通っている現実を知れば、それ以外の取引についても、大よその見当は付こう。2010年、北海道議会での議員と道行政との質疑を通じて浮かび上がった山林売買の実態はかなり衝撃的である。

現行の法制度によれば、1ヘクタール未満の山林売買は自治体への届けは不要である。であれば森林を細切れにして買えば、誰にも知られずに手にはいることになる。「そこでお伺いしますが、道内における林地を細分化して分譲する、いわゆる原野商法のように売り出されている森林はどの程度あるのか」。これに対する道庁側の答弁はこうである。かかる分譲森林は25000ヘクタールに及び、「個々の所有者は把握できていない」(中村前掲書155-6頁)。

その購入者は中国を含めた外国資本である。さらに、彼らが購入した森林には水土保全林、水源涵養保安林も含まれ、しかもこれは「都市住民に良質な水を供給する目的で、環境を守っている森林である。河川の上流に位置していて水源を養う役割を持つ」。そして、こうした林地の所有に関わる企業数は2200社に達するという(前掲書158頁)。

これを読んで背筋が寒くなるのは、私だけではあるまい。土地の利害関係者が増えるにつれ権利関係は幾何級数的に複雑になり、土砂災害やその対策等の迅速な対応は困難になる。勝手に私有林に入って、ダムや土留め工事など不可能だろうから。それ以上に、誰とも知れぬ外国資本に水源の所有権、水利権を握られ、都市住民が陰に陽にその支配下に置かれたら、と想像してみよ。その危険なる事、並ではない。

この危惧は単なる絵空事ではない。相場の5倍以上の値を付けて広大な森林を手に入れた中国資本の意図は何であったか。色々考えられるが、水源の確保が確からしい。その前例はすでにあった。以前、水源地を外国資本に買われたニセコ町は、所有者からこの土地を借りて住民への飲料水を供給してきたが、2010年、マレーシアのYTLにその所有権が移り、これを機に町は水源地の買い取り交渉を始めたとのことである。であれば、「水が少なくて、特に北京、天津などの大都会では住民が生活用水に不安を感じている。将来を考えていろいろな形で水源を確保しようとしているのではないかとの推測」はかなりの現実味があろう(中村前掲書160頁)。

こうした事例は北海道だけのことではない。日本のあちこちで見られる現象である。対馬の土地を買い漁ろうとする韓国資本のケースを伝えたテレビ報道があったが、当地は言わずと知れたわが国防衛の最前線地である。しかし、所有者個人としては、売るに売れない山林の処分は悲願であろう。「誰かに山を売りたい。相手が中国人だろうが構わない」とテレビに向かって言ったのは四国のある県の村人であった(中村前掲書165頁)。

中村靖彦氏の所論に触れながら、『日本の食糧が危ない』事情を農業人口、農地の減少、土地政策、水源・山林と言った環境等から見てきた。こうして、農業を主たる産業とする地域の疲弊とは如何なるものであるかが、大よそ理解されたのではなかろうか。では、このような窮状にある個別の農村部はこれに対して、ドウ対応しようとしているのか。以下ではそうした問題について触れてみたい(以下次回)。


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