2015年5月28日

5月28日・木曜日・晴。

今日は、少々、英語の勉強をしよう。と言って、文法とかナンとか、そんな難しい話ではない。そんな話は、やりたくともコチラができない。英文を読んでいて、たまたま気付いたことを、チョイト、捻ったまでのこと。そこで、次の英単語を読んで貰いたい。

involve・巻き込む、没頭する。involvement・参加、没頭、男女の親密な関係。

absorb・吸収する、自分のものにする、没頭する。absorption・専心、熱中、没頭。

immerse・浸す、深く巻き込む、没頭させる。immersion・浸すこと、熱中、没頭。

fascinate・魅了する、とりこにする、興味をそそられる。fascination・魅了されること、夢中になること。

intrigue・陰謀をたくらむ、不義(密通)をする、興味をそそる(fascinate、amuse)。名詞として、陰謀、策略、不義。

何を言いたいのか、お分かりであろう。上記の単語は、いずれも「没頭する、我を忘れる」こと、状態を表そうとする点で、共通した意味を含む。もちろん、それぞれの言葉はそれ固有の由来と意味を持ち、それを基にして派生的に没頭、夢中の意味を帯びることにもなったのであろう。そうした言葉の語源や転生過程を探るという言語学的な探索は、それ自体、実に興味深く、人を「没頭・夢中」にさせる学問分野の一つであるが、ここではそんな事は、トテモ出来ない。

ただ言ってみたい事は、一口に「没頭・夢中」といっても、そのあり方、あるいはそこに至る過程は全く違うということだ。つまり、それだけ多様な「没頭・夢中」があるということである。そうした事態が、上記の言葉の解釈を介して何とはなしに理解されそうな事が、私には面白いのである。

例えば、invole。或る事に関わる内に、その人はそれに深く巻き込まれ、逃れられなくなって、次第に事の奥行き、深みを知るようになり、いつしかそれに夢中になる、というのはどうか。しかも、当初、事に対する興味はおろか嫌い、否、憎しみすらあったかもしれないが、にも拘らず、不覚にも、という事であれば、この語の意味はなお深まりも増そう。安倍公房『砂の女』の世界は、そんな一面を垣間見せてはくれないか。

intrigueの没頭も、興味深い。この語は元々イタリア語(ラテン語の変形)の「入り組ませる」という言葉に発し、そこから「複雑―陰謀」の意味を持ったらしい(ジーニアス英和大事典)。Oxford Advanced Learners Dictionaryには、to make sb intersted and want to know more about sth.とある。つまり、入り組んだ事に関わった者は、モット知りたくなり、それが表世界の裏側にある陰謀めいた事態であれば、彼は「知りすぎた男」としてそこから今更抜け出ることは出来ない。彼はもはや「没頭・夢中」の世界の住人となる他はないのである。不義・密通にいたっては、なにをか言わん。

このような解釈、あるいはコジツケは、他にもいくらでもできよう。どうか、ご自分なりの物語をつくってみたら如何か。ただ、一つだけ付け足しておきたい。翻訳書を読むとき、ただ「没頭・夢中」と訳されただけでは、原文ではどの言葉が使われ、だからそれがドンナ没頭・夢中なのかがハッキリせず、そうなればその状況やら背景、奥行きが読者の手から滑り落ちてしまうのではないか。たしかに意味は分かっても、手に汗は握られないのだ。恐らく、優れた翻訳とはそうしたニュアンスを余さず掬い取ったものをいうのであろう。そうした訳書にこそ出会いたい。

こんな言葉遊びをやってみて、改めて思う。さきにも言ったが、たまたま英文を読む中で、intrigueに触れ、英語の類語辞書から幾つかの関連後を引き出し、その微妙な意味合いの違いをとうして、私は「没頭・夢中」の多様さを教えられたのであった。勿論、その限りでのことでしかないが、それでもお陰で、我が日本語の幅は広がり、深みを増したと思う。ゲーテは言った。「外国語を知らぬ者は、自国語をも解さず」。至言ではないか。


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