2019年2月12日

2月12日・火曜日。曇り。先週より体調不良をかこち、今に続く。昨年、惜しくも鬼籍の人となられた敬愛するT明治大学名誉教授が、退職する私に残した言葉がしみじみ思い出される。「金子さんをある大学に推薦しようと思ったが、止めにした。75歳までは何とも思わなかった体が、それ以降、本当に辛い。これを思うとネ…」。今にして思えば、有難いご配慮であった(前回の文章は論旨不明により、手を入れた)。

 

前記の矢作 弘『縮小都市の挑戦』は以上のような問題群を余すところなく示されたが、ここでは、本書によりながら、一点だけ言っておきたい。全国展開する大型店は、多くの販売商品の仕入れを地元からではなく、価格優位の他産地から仕入れることで、地場の生産と消費を切断すると共に、売り上げは直ちに本社に吸収されて地元に還元されない。地場産業の衰退とはそう言う意味であり、それはまた地元雇用の減退と需要能力の消滅を来たす。こうして大型店の進出は地元の産業基盤を掘り崩すのである。

そうして、市周辺の店舗は、普通はマイカーに拠ることから、一つは市域の拡大であり、本論でも繰り返し触れたように、道路、上下水道その他インフラ整備費の上昇を免れない(特に雪国の場合、除雪費だけでもその負担は耐えきれぬものになろう)。今一つは、市中心部に残された高齢者たちの日常生活の困難である。市商店街が衰退しても、郊外まで手軽に出かける手立とそれだけの体力の無い高齢者は買い物難民へ追いやられると言うわけである。

かくて、ここに孕む問題の大きさ、深刻さをようやく認識した国も地方も、大型店舗の野放図な出店に歯止めを掛けようと、法的整備に乗り出した。これが「まちづくり3法」として結実する。つまり、土地の利用規制によって乱開発を阻止する「改正都市計画法」、中心市街地の空洞化を食い止め、その活性化を図る「中心市街地活性化法」(この2法は1998年施行)及び「大規模小売店舗立地法」(2000年施行)の3法である。なお、立地法は直接大型店の出店を規制したものでは無いが、大型店の出店は当然、交通・騒音・廃棄物等の生活環境面に負荷を与えるとの配慮から、間接的にその出店に縛りを掛けることになる。

ここに至るには、当然その前史がある。いわゆる「大店法」(1973年法律100号)によって大型小売店の出店が規制され、その限り中小小売業者の保護と消費者の利益を守ったが、日米構造協議の場(1991)において、非関税障壁に当たるとの批判を受け、やがてそれは規制緩和を重ねつつ、先の「大店立地法」の成立によって廃案となった。

こう見ると、行政当局がこの問題を見逃しにして来た訳でないことは確かにしても、しかし3法が大型店出店に歯止めを掛けたかと言えば、そうではない。次の文章を引いておこう。「それで状況の変化がおきただろうか。…答えは明らかに「否」である。2003年度には786件まで急増。…2010年度以降は右肩上がりで増えている。しかも、出店計画地を調べると、依然、郊外が多い(経済産業省「中心市街地を巡る現状と課題」2012年11月)」(矢作前掲書236頁)。とすれば、先に見た地方都市の状況は、いまだ危機を脱するには程遠いと言わざるをえないだろう(以下次回)。


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