2018年6月26日

6月26日・火曜日。晴れ。世界経済に暗雲覆う。米中間の関税闘争に加えてEUの参戦。はて日本の戦略は?それ以上に、これがディールの枠内で収まり、やがて収束するのか。火遊びが大火になったら…。

 

住民増を目指した海潮地区に対して、鍋山地区はまるで反対の方向をとった。当地区では、外部からの移住者を呼び込む「定住促進対策」には目もくれず、従って例の交付金は別途に充てられる。その意図と方針を、秦美幸(よしゆき)地区会長が語る。

人口減少の対策として、都会からの移住者を迎え入れようとする試みが全国的に行われているが、「言葉が悪いけど、よそから来た人に50万円だとか、片付けに5万円とか、そんなお金を出すなら、瓦が落ちて、困っているおばばの家でも直してあげてよと思う」し、まだ水洗化されていない家を整備したりする方が、よほど地域のためになるはずだ。別に、国や雲南市の方針を批判する心算はないが、「新しい人を呼び込むだけでこの鍋山地区が、人口が増えて住みよい地域になるとはあまり思っていない」、むしろ「少なくなる人口でどうすれば幸せに生きて行けるか」ということに意を尽くしたいのである(141頁)。

こうして、当地区ならではのきめ細かな対策が取られてきた。高齢世帯への弁当配達や移動販売車の導入、また単身高齢者には緊急時の連絡体制の一つとして携帯電話を配布した。こうした多様な取り組みの中でも特徴的なのは、水道検針の代行業務である。当地区の後任に難渋していた水道局に秦会長が名乗り出て、業務報酬料80万円を得ながら、「毎月継続的に地区内全世帯の見守りを行う」ことが可能になった。作業対象は険しい山間に点在する400世帯に及び、しかも検診者はいずれも60代の住民7名が当たり、2人一組で朝8時から夕方5時頃までに100世帯を回るというから、相当の重労働であるに違いない。

この事業の狙いは「検針と同時に行う声かけ活動。高齢世帯を対象に、一人ひとりの顔色や体調、声の様子などを確かめ、記録を取り、何か異常があれば必要に応じて市の保健師に報告する。水道がない家でも高齢世帯であればすべて訪問した」(143頁)。これは一人暮らしの高齢者にとっては嬉しく、安心感に繋がると、好評であった。やがて事業の意味が認められたのか、2015年からは年数回保健師も検針に同行するまでになる。このようにして、「この地で人生を終えたいと思う人が、いつまでも安心して暮らし続けるための環境」(142頁)を、との会長の願いが整えられてきたのである。

鍋山地区の以上の取り組み、努力はその方針、考え方を含めて、海潮地区とは対照的ながら、評価されてよい点が多々あるように思う。しかし、こうした活動それ自体の内に、秦会長は「避けては通れない現実が迫ってきている」のを感じざるを得なくなってきた。つまり、いかに地区住民の健康を見守り、暮らしやすい環境を目指しても、「毎年一定数の高齢者が亡くなっていく現実に抗うことはできない」(144頁)からである。このままでは鍋山地区の存続はどうなるのか。会長は県の中山間地域研究センターに人口分析を依頼し、そして20年後には当地区の人口は半減するという、これまた意気阻喪させる結果であった(以下次回)。

2018年6月18日

6月18日・月曜日。雨続く。梅雨寒に重ねて寒し冷房車。

 

まず海潮地区の取り組みはこうである。当地区に運営組織が設立されたのは2005年のことであり、すでに10年以上の歴史を誇る。その間、活動を指導し、30の地区の中でも「優等生」とまで言われるほどに育て上げたのは、加本恂二会長であった。会長によれば、その頃、当地区は山間部に比べれば町にも近く、近在には職場も在って、地区の存立を心配する必要は、感じていなかった。しかし、実際には若い家族の松江市内への移住は続き、ある時「年寄りだけ残っていく感じが目に見えた。せめて減るスピードを抑えなければ、地域の存続は厳しい」。以来、この危機意識のもと、実に多様な対策をと取って来た。

田舎暮らし体験ツアー、U・Iターン交流事業、地区内の空き家情報調査、婚活イベント等々の移住者を呼び込む対策、活動を繰り広げてきた。加えて、共働き世帯の支援として、保育所を開設し、それまで地区外の保育所まで往復12キロの送迎問題を解消する。そのための保育士・補助者の雇用に必要な費用は、低廉な受益者負担金と不足分は「地区内全世帯からまちづくりのための費用として年間1000円ずつ回収して運用費用にあてた。」こうして「地域で子供を預かる」仕組みができ、多い時には年間延べ2360人余の子供たちが保育され、この事業は2016年市の認定こども園として引き継がれる。会長は言う。このような事業の積み重ねによって、「住民たちの地域への意識が年々高まっているのを感じ」、このような活動のある限り、「地域は元気だし、地方消滅なんて言われてもまだまだ可能性は広がっているし、打つ手」はある、と。

こうした広範な取り組みと、人口減少に対する対策だけでも年間400万円近くを投じて、10年以上の歳月を経た。そして、その成果はどうであったか。各集落を回って住民移住者の動向を調査すると、11年間で22世帯50名が移住し、その間400人以上の人口減少を見、40%以上の高齢化率であった。そこで、今後の地域運営の安定化を図るにはどれ程の移住者が必要かとの人口分析を、県の専門機関に依頼した結果は、まさに衝撃的という他はない。

まず人口数の安定には1、人口減少比の緩和、2、子供の数(少・中学生の人口予測)の安定化、3、高齢化率の下げ止まり、の3点が達成される必要がある。そこで、当地区の住民基本台帳を基にシミュレーションした場合、1、20代前半の夫婦3世帯、2、30代前半の夫婦(4歳以下の子連れ)3世帯、3、60代前半夫婦5世帯の計11世帯の移住が、毎年確保されることという結果であった。これはこれまでの成果に比して何とも厳しい数字、それどころか実現不可能な目標ではないだろか(以下次回)。

2018年6月12,15日

6月12日・火曜日。曇りから雨。梅雨来る。

6月15日・金曜日。雨。この度の米朝首脳会談については、思うところは多々あるものの、ここで扱えないのは残念である。会談が両首脳の単なる政治的なパフォーマンスと権力誇示に終わらないことを願う(本日、老眼鏡を紛失し書いた文章の文意よく理解できずこまった)。

 

では、このような消滅の淵にある集落は、これに対してどう対応したか。前掲書では、島根県雲南市内の海潮(うしお)地区と鍋山地区の二つの事例を取り上げるが、両地区の対応が対照的だったからであろう。

ただいずれの地区も、対応、対策の主体は県や市ではなく、当該地区の住民にある点は変わらない。という事は、集落の存立を図り、願わくは発展を目指すプラン造りやそのための行動は住民自体に任されたということである。これを県や市は「住民との協働」という。だがそれは、本来、行政が担うべき市民生活のための諸業務の住民への転嫁、押し付けになりかねない。とすれば、自身の生活すらままならない高齢化した住民たちにとっては、大変な負担であることは間違いない。

ところで「住民との協働」とは、具体的には、行政が一定の自治を移譲できる、住民によって造られた「地域運営組織」を通して実現される制度であり、これは雲南市が全国に先駆けて導入したが、以来全国からの視察が相次ぐほどの画期的な制度であった(因みに同市は30の地区に分け地域自主組織を設立した)。その背景には、全国的に各市は職員削減に加え、高齢化に伴う義務的経費やサービスの多様化と増加にあって、行政にはもはやそれらを賄いきれないという事情がある。であれば、雲南市長は言わざるをえなかった。「これからは国・県・市町村が何をしてくれるかではなく、住民自らが地域をどうするかという時代です」。

その運営はこうなる。各組織には市から平均800万円の交付金が支給され、その使途は組織に任される。で、「住民組織は、将来の地域の姿を自ら描き、限られた財源の中で何を優先するかを考えて、地域に必要な事業を企画・実行していく。行政は各組織の決断に干渉することはなく、地域に貢献する人材の育成や、情報共有の場づくりなど裏方に徹しながら、地域住民の“自治力”を高める役割を担う」(132頁)。こうした仕組みの中で、先の2地区はそれぞれの方針を打ち出し、地区再生に乗り出すのであるが…(以下次回)。