2020年9月4,8日

9月4日・金曜日。苛烈な残暑なお続く。九州地方には、過去にない強烈な台風が接近中とのことである。国交省と気象庁は、極めて異例な合同記者会見を開き、これを「特別警報級」と呼んだ。沖縄方面の海温が30度に達するというのも異常であり、地球レベルでの温暖化対策は、喫緊の課題である。

9月8日・火曜日。晴れ。九州地方の惨害、三たび。言葉もない。本日は前回の、特に後半部分の加筆訂正に留める。

 

先に私はインカ帝国の「瓦解」を言ったが、この言い方は恐らく正しくない。帝国を自分から壊すという意味で、これは「自壊」したのである。瓦解には、古くなった物事、組織が外部からの衝撃に耐えきれず、自然に崩れるという趣があり、その限り受動的である。だが、インカの場合、それではない。住民、国民自らが自分たちのこれまでの罪業を認め、だから生活万般、つまり言語や信仰、宗教、風習及び統治機構に至る一切を改め、征服者たちの信じ、命ずる神に帰順し、その怒りを和らげなければならない。こうして、一刻も早くキリストにあって救われたいと願ったのではないか。とすれば、インカ帝国はただ滅亡したのではなく、住民たちが自ら壊し、積極的に新たな国を創造しようという意志が働いた。帝国が一挙に崩壊したとは、その様な意味に解して初めて明らかになるのではないだろうか(下巻・94頁参照)。

だが、疫病蔓延のメカニズムは、本来、そうした人間の側の勝手な解釈とは全く別ものである。それは原因と結果の関係を解く、科学の問題である。例えば、天然痘は宿主となる人体に侵入した痘瘡ウイルスが増殖し、その結果高熱と共に発疹、膿疱を発症させる殺傷力の高い感染症である。病人との何らかの接触によってウイルスを身体に取り込んだ者が罹患する。

病気のこうした機序は、医学によって解明された。こんな分かり切った事を、私がわざわざ言うのは、人間の意志や善行、信仰がどうあれ、病気には全く別のメカニズム、法則が作用していることをハッキリさせたかったからである。これは、「生じていること」すなわち現象の解明、理解は、それ固有の領域であり、人間の意図や願望とはまるで別物である、と理解することに通じる。

くどくどと、同じような事を言っている気もしないではないが、実は現在でもその種の混乱、あるいは意図的な混同は常に起こり得ると感ずるからである。つまり、事実経過の説明、解明の中に、秘かにある願望や意図を潜ませ、取るべき対策、対応を自己に都合の良さそうな方向に誘導するような場合である。

たしかに、インカ滅亡については、宣教師は天然痘の病理学的な仕組みが分かっていた分けでなく、彼らとしては太陽神を信ずるインデオの苦境、惨状を見るにつけ、キリストの神による一刻も早い救済をとの一念から、必死に彼らの入信を説いた、という一面もあったろう。だが、キリスト教への帰順以外に救いの道無し、と信じたインデオの結末はすでに見たとおりである。

しかし、こうした結果を自ら招いたインデオは無知であった、哀れであったと嗤うことは出来ない。我われは、ほんの70年ほど前に、日米相互の国力、それに基づく戦力差、近代戦の論理、燃料・資源の冷静な分析、総合判断、そこから帰結する科学的・論理的結果をよりも、神国・日本は神に守られていると本気で信じ、国民を指導する政治家を仰いでいたのだから。

つまり、この種の煽動は科学の進歩や情報の発達がどうあれ、もっともらしい解説や報道、教育の在り様によって、いつでも起こるし、現在も起こっていることである。これとの関連で特に一言したいことがある。不都合な事実に直面すると、それを凝視せずに、事実の根拠を隠蔽し、誘導したい資料を捏造してまで、これを無きものにしようとする風潮が出てきた。こうして、「事実」と「虚偽」との峻別が危うくなり、何がなにやら判別しがたい不気味な時代風潮がわが国に忍び寄って来た。のみならず、それは世界にも瀰漫しつつあるように見えることである。ヒトラーは言ったという。「嘘は大きくつけ。そして、つき続けよ。されば、それはやがて真実になる。」と(以下次回)。


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