2017年10月10日

10月10日・火曜日。快晴。と言って、小生、相も変らぬ不精な生活ゆえ、陽は早や西に傾きその恩恵を知らず(前回の文章、やや加筆)。

勿論、彼の自白はどこにも残されてはおらず、真相は知るべくもない。だが、著者は丹念な取材と状況証拠を積み上げ、驚くべき結論を引きだす。そもそも下山事件には幾つもの利害関係が絡まり、事はそれほど簡単に決着を付けられない。まず、GHQの占領政策を介して莫大な利益を引き出そうとする米本国のジャパンロビーの熾烈な活動がある。その代表者はハリー・カーンなる人物であった。その背後にはロックフェラー財団、J・Pモーガン社が控え、ドッジラインによって設定された1ドル360円の日本政府にとっては必ずしも歓迎されなかった超円安のレートを梃子に軍事産業等に巨大なドル投資を行う。そこには国鉄の買収まで含まれていたようで(また投資の引き上げの際、円高に振れていればそこに膨大な利益が発生する仕組みである)、著者によれば総裁はその線上において邪魔者として除去されることが望ましかった。

第二の論点は、国鉄をめぐるわが国の政界、・経済界に関わる問題であった。国鉄は当時国内随一の巨大な公共事業であった(これは基本的に現在でも言えることではないか)。用地取得、建設工事、これに絡む無限の素材調達、電源設備、車両・内装、観光・ホテル・飲食事業、一切の保守点検・補修事業、不動産開発等々に関わり、これらに要する人員の確保と教育をあげれば、その永続性に加えて、すそ野は無限である。同時に、規模も巨大である。そうした事業の一角に食い込めれば利益は膨大なものとなる。ここに政治家、企業家間の利権をめぐる闘争が熾烈を極めるのは当然である。

他方、下山総裁は正義感の勝った人であったらしい。そして、特異な人物でもあった。元々、技術系の出であり、運輸次官に昇り詰めるが、そうした利権には恬淡なところがあった。また、氏は何にせよ、自ら情報を収集したがる癖があった。それ故、この問題についても氏は政府高官、政治家らが利権にどう絡み、何をしているかと言った情報を、亜細亜産業にも繋がる連中からも得ていたらしい。さらに彼は、次官当時の昭和23年、鉄道電化工事に際して、電源工事(小千谷発電所)の事業者を日立製作所に決定するが、そこには前次官と業者とに不正問題があり、それを受けて急遽下山が次官に昇進するという経緯があった。これに関わるかどうかは確かではないが、その入札に際して漏れた筆頭は「東芝」であり、このトラブルで買った恨みが「下山事件の動機になったという証言」(578頁)を、著者は紹介している。

つまり、総裁の死は政治家や企業の利権争いをどこまで知っているか、それを「自白」させようとしたことに加えて、過去の恨みを晴らし、余計なことに関わるなという今後の「見せしめ」として実行されたという事であるらしい。とすれば、事件は首切りに反対する国鉄労組の仕業という線は筋違いであるばかりか、むしろ彼の死は当局によって組合潰しに利用されたことになる。さらに著者はもう一点、下山の正義感に発する組合への同情、その社会主義的な傾向への右翼の反発、反感を付加しているがそれは割愛しよう(以下次回)。


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