2016年10年24日

10月24日・月曜日。久方ぶりの快晴。

前回の話に一二付言したい事を思い出した。それは、私の勝手な推論であり、ツヴァイクがそう書いている訳ではないが、そう考えればやはり怖い話と思うからだ。

さて、今やズーターの部下達の誰もが自分の仕事、義務を放り出し、勝手に金の採掘に没頭し始めた。彼らは別段、ズーターに反感、恨みがあった訳ではない。むしろ、恩義すら感じていたかも知れない。ただ、自分も金を掘れば、イッパシノ金持ちになれると思った、それだけのことからである。そうして、最早、ズーターの言うことは、耳に入らなくなった。こうして、昨日まであった指揮命令系統は跡形もなく消え去った。何の争いもなく、霜が朝日に解けるように至極当然、自然に生じたかのようであった。

ズーターは驚いたことだろう。昨日まであれほど忠実であり、親身であった部下たちが、昨日と同じ姿と顔付きをしながら、しかし今日は彼に対して、まるで他人を見るような目つきで、相手にもならずに土を掘り続けているからだ。何か震災や戦争のような境遇の激変によって、事態は変わった。そうした挙句の混乱と人々の変容であれば、彼もそれを覚悟し、受け入れることも出来たであろう。そうした事は何も無く、ここを掘れば金が手に入る、ただその事実を知っただけの事で、しかもその土地は彼らのものでも無いにも拘らず、事態は一挙に暗転したという事実である。

これを、一体何に例えたら良いだろうか。通貨(紙幣)、これか。昨日まで、誰もが何でも手に入れることの出来たカネが、今日は通用しないとなったらどうだろう。特に紙幣であれば、それは単なる一片の紙屑に過ぎないという話である。爪に火を灯す、という言葉があるが、そんなにまでして貯めたカネが、一夜にして単なる紙に化すとは。そんな事態に逢着したとき、ヒトは一体ドンナ顔をするのだろう。

ともあれ、ズーターの最初の思いは、恐怖というより、何か不思議な感覚ではなかったか。それから得体の知れない不気味さと恐怖に包まれたのではないか。それにしても、恐ろしきは、人の心の捉え難さであり、儚さである。それにも拘わらず、人が人に事を命じ、それが間違いなく執行される、とは如何なる仕組みに拠るものなのであろう(今日はここまで)(前回の文章大分訂正した)。


Comments

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です